外食|No.02

牛丼チェーンは、なぜ思ったほど稼げないのか

2026年11月読む時間 約8分ゼンショーHD・吉野家HDの決算短信から
3行でいうと
  1. すき家の事業の利益率は、1年で8.3%から3.0%に下がった。営業利益は6割減った。
  2. コメと輸入牛肉の値上がりに、牛丼の値下げと店の改装が重なった。材料の種類が少ない商売は、値上がりから逃げにくそうだ。
  3. 吉野家は牛丼の事業で5.0%稼ぐが、本社の費用などで利益の3分の1が消え、会社全体では3.6%になる。

問い:安定して稼げそうなのに、なぜ低いのか

No.00で外食8社の営業利益率を並べたとき、最下位は吉野家の 3.6% だった。すき家を持つゼンショーは 6.4% で真ん中あたり。No.01で見たマクドナルドの12.8%と比べると、牛丼チェーンはどちらも目立たない。

これが意外だった。牛丼チェーンは、外食の中でもいちばん「仕組み」がしっかりしていそうに見える。メニューは牛丼が中心で、使う材料は限られている。材料の仕入れ先も流れも決まっていそうで、店では盛りつけるだけ。お客さんの回転も速い。安定して稼げる商売に見える。

それなのに、なぜ利益率は高くないのか。今回は、ゼンショーと吉野家の決算短信を使って、この問いを確かめていく。

牛丼の事業だけを切り出す

まず気をつけたいのは、No.00の数字が「会社全体」の利益率だということだ。ゼンショーは、すき家のほかに、はま寿司、なか卯、海外の持ち帰り寿司などもたくさん持っている。吉野家HDにも、はなまるうどんや海外の店が入っている。これでは牛丼の稼ぐ力は分からない。

そこで使うのが、決算短信の後ろのほうにある「セグメント情報」だ。会社が事業ごとに、売上と利益を分けて書いているページで、ゼンショーなら「グローバルすき家」、吉野家HDなら「吉野家」という区分がある。これで、牛丼の事業だけの利益率を出せる。

計算する前に、1つ予想してみてほしい。

予想してみよう

すき家の事業の利益率は、前の年は8.3%だった。今年はいくつ?

牛丼の事業の利益率を、すき家と吉野家で、前の年と今年に分けて並べたのが図1だ。

図1 牛丼の事業の利益率事業の利益 ÷ 事業の売上
すき家前の年
8.3%
すき家今年
3.0%
吉野家前の年
5.7%
吉野家今年
5.0%

すき家はゼンショーHDの「グローバルすき家」セグメント(今年=2026年3月期、売上3,148億円・利益93億円。前の年=2025年3月期、売上2,960億円・利益245億円)。吉野家は吉野家HDの「吉野家」セグメント(今年=2026年2月期、売上1,512億円・利益76億円。前の年=2025年2月期、売上1,378億円・利益77億円)。売上はほかの事業への売上を含む。

すき家は、前の年は 8.3% あった。No.00の8社に並べれば、スシローとほぼ同じで上位に入る水準だ。それが今年は 3.0% まで下がった。営業利益で見ると245億円から93億円へ、62.0% 減っている。

吉野家は、前の年の 5.7% から今年は 5.0%。下がってはいるが、すき家ほどではない。そして事業だけで見れば、会社全体の3.6%よりずっと高い。この「3.6%との差」は、あとで見る。

ここで1つ分かるのは、牛丼チェーンの利益率は「いつも低い」わけではない、ということだ。すき家は1年前まで、外食の中でも稼げる側にいた。問いは「なぜ低いのか」から、「なぜ1年でここまで動くのか」に変わる。

すき家に何が起きたか

売上が減ったわけではない。すき家の売上は前の年より6.3%増え、前からある店だけで比べた売上(既存店売上高)も 104.3% と伸びている。お客さんが離れたのではなく、売上は増えたのに、手元に残る分が大きく減った。

決算短信は、利益が減った理由を1つずつ数字で分けてはいない。ただ、この1年に起きたこととして、次の3つが書かれている。

材料が高くなった年に、売る値段を下げ、店にもお金をかけた。3つとも利益を減らす向きに働く。売上が増えても利益が6割減った理由は、この重なりで説明できそうだ。

「メニューが少ない」は、逆にも働く

最初の仮説では、メニューが少なく材料が限られていることを、牛丼チェーンの強みだと考えていた。種類が少なければ、まとめて安く仕入れられ、捨てる分も少ない。それは今も正しいと思う。

ただ、今回の数字を見ると、同じことが弱みにもなる。牛丼の材料の中心は、コメと牛肉だ。その2つが同時に値上がりすると、ほかの材料で埋め合わせることができない。ファミレスのようにメニューが多ければ、値上がりした材料を使う料理を減らし、ほかの料理をすすめることもできるが、牛丼の店では牛丼をやめられない。

さらに、牛丼は「安くて早い」が売りなので、値上げもしにくい。すき家は今年、むしろ値下げを選んだ。材料の値上がりを値段に乗せにくく、ほかの料理にも逃げにくい。「安定していそう」に見えた形は、材料の値段が安定しているときだけ安定する形だった、というのが今回の見立てだ(数字で確かめきれていない部分は、最後の「理解の穴」に書いた)。

吉野家は、本社の費用で3分の1が消える

次に、2つ目の疑問。吉野家は、牛丼の事業では5.0%稼いでいるのに、なぜ会社全体では3.6%しかないのか。

吉野家HDのセグメント情報には、事業ごとの利益を足したあとに「調整額」という行がある。ここに、どの事業にも配られていない本社の費用(全社費用)などが入っていて、事業の利益の合計から引かれる。

予想してみよう

吉野家HDの事業ごとの利益を足すと127億円。本社の費用などを引くと、どれくらい減る?

事業ごとの利益から、会社全体の営業利益になるまでの流れを図にしたのが図2だ。

図2 吉野家HD:事業の利益から営業利益まで2026年2月期
事業の利益の合計吉野家・はなまる・海外・その他127.0億円
−46.1億円本社の費用など
営業利益80.9億円

2026年2月期の決算短信のセグメント情報から。事業の利益の合計は、吉野家76.2億円・はなまる24.2億円・海外19.5億円・その他6.9億円。調整額−46.1億円のうち、全社費用が−47.4億円、のれんの償却が−1.2億円、事業どうしの取引の消去が+2.5億円。

事業ごとの利益は合わせて 127億円 あるが、本社の費用などで 46億円 が引かれ、営業利益は 80.9億円 になる。中心は全社費用の47億円で、これは会社全体の売上の 2.1% にあたる。

もし全社費用がなければ、会社全体の利益率は5.7%になる。つまり、吉野家の3.6%が低いのは、店の稼ぐ力が特に弱いからだけではない。事業のうしろにいる本社の費用が、利益率を約2ポイント押し下げている。

本社の費用を「どこに置くか」で利益率が変わる

ここで、図1の比べ方にも注意が要ることに気づいた。すき家の3.0%と吉野家の5.0%は、同じ物差しで測った数字ではない。2つの会社では、本社の費用の置き場所がちがうからだ。

図3 本社の費用の置き場所のちがい
吉野家HDゼンショーHD
本社の置き場所事業の外。「全社費用」として最後に引く「本社・サポート」という1つの事業として数える
本社の中身主に、どの事業にも属さない費用食品の製造・加工、物流、備品やユニフォームの調達などの会社
本社とお店のお金のやりとり事業どうしの売上は小さい(合計約27億円)本社からほかの事業への売上が 4,814億円
牛丼の事業の利益率は本社の費用を引く前本社から材料などを買ったあと

両社の決算短信のセグメント情報から。吉野家HDの事業どうしの売上は2026年2月期の合計26.7億円。ゼンショーHDの「本社・サポート」のほかの事業への売上は2026年3月期で4,814億円(前の年は4,080億円)。

ゼンショーでは、材料を作る工場や物流の会社が「本社・サポート」にまとまっていて、すき家やはま寿司に材料を売っている。その額は1年で 4,814億円。すき家の利益は、この本社から材料などを買ったあとの数字だ。

吉野家では、本社の費用の多くが事業の外に置かれ、最後にまとめて引かれる。吉野家の5.0%は、その前の数字だ。

もう1つ、気になる数字がある。ゼンショーの「本社・サポート」の利益は、前の年の −74億円(赤字)から、今年は +27億円 になった。100億円ほど良くなっている。同じ1年で、すき家の利益は151億円減った。本社が材料を売る値段が変われば、利益は本社とすき家のあいだで動く。すき家の落ち込みのうち、どこまでが材料の値上がりで、どこまでが社内の値付けの変化なのかは、決算短信からは分けられなかった。ここは理解の穴に残し、次の号で掘る。

判定と結論

最初の仮説を、今回の数字で判定するとこうなる。

仮説判定根拠
流れが決まっていて、安定して稼げる×すき家の利益率は1年で8.3%→3.0%。材料の値上がりで大きく動いた
メニューが少なく、効率よく稼げる△効率はよさそうだが、材料が少ないぶん、値上がりの影響から逃げにくい
(追加)吉野家が低いのは、店が弱いから△牛丼の事業は5.0%。会社全体の3.6%との差は、主に本社の費用

牛丼チェーンが思ったほど稼げない理由は、2つに分けられそうだ。

1つ目は、材料の値段に左右されやすい形であること。牛丼はコメと牛肉が中心で、ほかの料理に逃げにくく、「安さ」が売りなので値上げもしにくい。材料が安いときは高く稼げるが(すき家の前の年の8.3%)、値上がりした年には一気に落ちる(今年の3.0%)。安定しているのは仕組みのほうで、利益ではなかった。

2つ目は、会社全体の利益率には、本社の費用の重さも入ること。吉野家は牛丼の事業で5.0%稼いでいるが、本社の費用などで3分の1が消えて3.6%になる。そして、本社の費用をどこに置くかは会社によってちがうので、事業の利益率も単純には比べられない。

ここから学べること

No.01の学びは、「利益率を比べる前に、売上に何が入っているかを確かめる」だった。今回はその反対側で、費用がどこに置かれているかを確かめることが大事だった。同じ「事業の利益率」でも、本社の費用を引く前なのか、本社から材料を買ったあとなのかで、意味が変わる。

もう1つは、1年分の数字だけで「稼ぐ会社」「稼げない会社」と決めないこと。すき家は1年前なら上位に入っていた。外食のように材料の値段に左右される商売は、何年か並べて、利益率がどれくらい揺れるかも見たほうがいい。

比べるときの注意

自分の理解の穴

この号で出てきた言葉

セグメント情報
会社が事業ごとに、売上と利益を分けて書いたもの。会社全体の数字では見えない、事業ごとの稼ぐ力が分かる。
全社費用
本社の費用など、どの事業にも配られていない費用。事業の利益を足したあとに、まとめて引かれる。
調整額
事業ごとの利益の合計と、会社全体の営業利益の差を埋める行。全社費用や、事業どうしの取引の消去などが入る。
事業どうしの売上(セグメント間の内部売上高)
同じグループの中で、ある事業がほかの事業に売った分。グループ全体の売上からは消される。
既存店売上高
前の年から営業している店だけで比べた売上。新しい店が増えた分を除いて、お客さんの入りを見るのに使う。
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出典:ゼンショーホールディングス 2026年3月期 決算短信(経営成績の概況、報告セグメントごとの売上高・利益)、吉野家ホールディングス 2026年2月期 決算短信(セグメント概況、報告セグメントごとの売上高・利益、調整額)。
この記事は、学びながら書いている勉強ノートです。投資の判断に使うものではありません。数字の間違いに気づいたら教えてください。