牛丼チェーンは、なぜ思ったほど稼げないのか
- すき家の事業の利益率は、1年で8.3%から3.0%に下がった。営業利益は6割減った。
- コメと輸入牛肉の値上がりに、牛丼の値下げと店の改装が重なった。材料の種類が少ない商売は、値上がりから逃げにくそうだ。
- 吉野家は牛丼の事業で5.0%稼ぐが、本社の費用などで利益の3分の1が消え、会社全体では3.6%になる。
問い:安定して稼げそうなのに、なぜ低いのか
No.00で外食8社の営業利益率を並べたとき、最下位は吉野家の 3.6% だった。すき家を持つゼンショーは 6.4% で真ん中あたり。No.01で見たマクドナルドの12.8%と比べると、牛丼チェーンはどちらも目立たない。
これが意外だった。牛丼チェーンは、外食の中でもいちばん「仕組み」がしっかりしていそうに見える。メニューは牛丼が中心で、使う材料は限られている。材料の仕入れ先も流れも決まっていそうで、店では盛りつけるだけ。お客さんの回転も速い。安定して稼げる商売に見える。
それなのに、なぜ利益率は高くないのか。今回は、ゼンショーと吉野家の決算短信を使って、この問いを確かめていく。
牛丼の事業だけを切り出す
まず気をつけたいのは、No.00の数字が「会社全体」の利益率だということだ。ゼンショーは、すき家のほかに、はま寿司、なか卯、海外の持ち帰り寿司などもたくさん持っている。吉野家HDにも、はなまるうどんや海外の店が入っている。これでは牛丼の稼ぐ力は分からない。
そこで使うのが、決算短信の後ろのほうにある「セグメント情報」だ。会社が事業ごとに、売上と利益を分けて書いているページで、ゼンショーなら「グローバルすき家」、吉野家HDなら「吉野家」という区分がある。これで、牛丼の事業だけの利益率を出せる。
計算する前に、1つ予想してみてほしい。
すき家の事業の利益率は、前の年は8.3%だった。今年はいくつ?
メニューが決まっていて安定していそうな商売が、1年でここまで動く。何が起きたのかを、このあと見ていく。
牛丼の事業の利益率を、すき家と吉野家で、前の年と今年に分けて並べたのが図1だ。
すき家はゼンショーHDの「グローバルすき家」セグメント(今年=2026年3月期、売上3,148億円・利益93億円。前の年=2025年3月期、売上2,960億円・利益245億円)。吉野家は吉野家HDの「吉野家」セグメント(今年=2026年2月期、売上1,512億円・利益76億円。前の年=2025年2月期、売上1,378億円・利益77億円)。売上はほかの事業への売上を含む。
すき家は、前の年は 8.3% あった。No.00の8社に並べれば、スシローとほぼ同じで上位に入る水準だ。それが今年は 3.0% まで下がった。営業利益で見ると245億円から93億円へ、62.0% 減っている。
吉野家は、前の年の 5.7% から今年は 5.0%。下がってはいるが、すき家ほどではない。そして事業だけで見れば、会社全体の3.6%よりずっと高い。この「3.6%との差」は、あとで見る。
ここで1つ分かるのは、牛丼チェーンの利益率は「いつも低い」わけではない、ということだ。すき家は1年前まで、外食の中でも稼げる側にいた。問いは「なぜ低いのか」から、「なぜ1年でここまで動くのか」に変わる。
すき家に何が起きたか
売上が減ったわけではない。すき家の売上は前の年より6.3%増え、前からある店だけで比べた売上(既存店売上高)も 104.3% と伸びている。お客さんが離れたのではなく、売上は増えたのに、手元に残る分が大きく減った。
決算短信は、利益が減った理由を1つずつ数字で分けてはいない。ただ、この1年に起きたこととして、次の3つが書かれている。
- 材料の値上がり:グループ全体の環境として、「コメ価格の高騰」と、輸入牛肉などの原材料価格の上昇が挙げられている。
- 牛丼の値下げ:物価高が続く中、「多くのお客様により手頃な価格で」として、すき家は牛丼を値下げした。
- 店の安全対策:前の年の終わりに一部の店で起きた異物混入を受けて、清掃の強化や、古くなった店の改装を続けている。
材料が高くなった年に、売る値段を下げ、店にもお金をかけた。3つとも利益を減らす向きに働く。売上が増えても利益が6割減った理由は、この重なりで説明できそうだ。
「メニューが少ない」は、逆にも働く
最初の仮説では、メニューが少なく材料が限られていることを、牛丼チェーンの強みだと考えていた。種類が少なければ、まとめて安く仕入れられ、捨てる分も少ない。それは今も正しいと思う。
ただ、今回の数字を見ると、同じことが弱みにもなる。牛丼の材料の中心は、コメと牛肉だ。その2つが同時に値上がりすると、ほかの材料で埋め合わせることができない。ファミレスのようにメニューが多ければ、値上がりした材料を使う料理を減らし、ほかの料理をすすめることもできるが、牛丼の店では牛丼をやめられない。
さらに、牛丼は「安くて早い」が売りなので、値上げもしにくい。すき家は今年、むしろ値下げを選んだ。材料の値上がりを値段に乗せにくく、ほかの料理にも逃げにくい。「安定していそう」に見えた形は、材料の値段が安定しているときだけ安定する形だった、というのが今回の見立てだ(数字で確かめきれていない部分は、最後の「理解の穴」に書いた)。
吉野家は、本社の費用で3分の1が消える
次に、2つ目の疑問。吉野家は、牛丼の事業では5.0%稼いでいるのに、なぜ会社全体では3.6%しかないのか。
吉野家HDのセグメント情報には、事業ごとの利益を足したあとに「調整額」という行がある。ここに、どの事業にも配られていない本社の費用(全社費用)などが入っていて、事業の利益の合計から引かれる。
吉野家HDの事業ごとの利益を足すと127億円。本社の費用などを引くと、どれくらい減る?
事業ごとの利益から、会社全体の営業利益になるまでの流れを図にしたのが図2だ。
2026年2月期の決算短信のセグメント情報から。事業の利益の合計は、吉野家76.2億円・はなまる24.2億円・海外19.5億円・その他6.9億円。調整額−46.1億円のうち、全社費用が−47.4億円、のれんの償却が−1.2億円、事業どうしの取引の消去が+2.5億円。
事業ごとの利益は合わせて 127億円 あるが、本社の費用などで 46億円 が引かれ、営業利益は 80.9億円 になる。中心は全社費用の47億円で、これは会社全体の売上の 2.1% にあたる。
もし全社費用がなければ、会社全体の利益率は5.7%になる。つまり、吉野家の3.6%が低いのは、店の稼ぐ力が特に弱いからだけではない。事業のうしろにいる本社の費用が、利益率を約2ポイント押し下げている。
本社の費用を「どこに置くか」で利益率が変わる
ここで、図1の比べ方にも注意が要ることに気づいた。すき家の3.0%と吉野家の5.0%は、同じ物差しで測った数字ではない。2つの会社では、本社の費用の置き場所がちがうからだ。
| 吉野家HD | ゼンショーHD | |
|---|---|---|
| 本社の置き場所 | 事業の外。「全社費用」として最後に引く | 「本社・サポート」という1つの事業として数える |
| 本社の中身 | 主に、どの事業にも属さない費用 | 食品の製造・加工、物流、備品やユニフォームの調達などの会社 |
| 本社とお店のお金のやりとり | 事業どうしの売上は小さい(合計約27億円) | 本社からほかの事業への売上が 4,814億円 |
| 牛丼の事業の利益率は | 本社の費用を引く前 | 本社から材料などを買ったあと |
両社の決算短信のセグメント情報から。吉野家HDの事業どうしの売上は2026年2月期の合計26.7億円。ゼンショーHDの「本社・サポート」のほかの事業への売上は2026年3月期で4,814億円(前の年は4,080億円)。
ゼンショーでは、材料を作る工場や物流の会社が「本社・サポート」にまとまっていて、すき家やはま寿司に材料を売っている。その額は1年で 4,814億円。すき家の利益は、この本社から材料などを買ったあとの数字だ。
吉野家では、本社の費用の多くが事業の外に置かれ、最後にまとめて引かれる。吉野家の5.0%は、その前の数字だ。
もう1つ、気になる数字がある。ゼンショーの「本社・サポート」の利益は、前の年の −74億円(赤字)から、今年は +27億円 になった。100億円ほど良くなっている。同じ1年で、すき家の利益は151億円減った。本社が材料を売る値段が変われば、利益は本社とすき家のあいだで動く。すき家の落ち込みのうち、どこまでが材料の値上がりで、どこまでが社内の値付けの変化なのかは、決算短信からは分けられなかった。ここは理解の穴に残し、次の号で掘る。
判定と結論
最初の仮説を、今回の数字で判定するとこうなる。
| 仮説 | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| 流れが決まっていて、安定して稼げる | × | すき家の利益率は1年で8.3%→3.0%。材料の値上がりで大きく動いた |
| メニューが少なく、効率よく稼げる | △ | 効率はよさそうだが、材料が少ないぶん、値上がりの影響から逃げにくい |
| (追加)吉野家が低いのは、店が弱いから | △ | 牛丼の事業は5.0%。会社全体の3.6%との差は、主に本社の費用 |
牛丼チェーンが思ったほど稼げない理由は、2つに分けられそうだ。
1つ目は、材料の値段に左右されやすい形であること。牛丼はコメと牛肉が中心で、ほかの料理に逃げにくく、「安さ」が売りなので値上げもしにくい。材料が安いときは高く稼げるが(すき家の前の年の8.3%)、値上がりした年には一気に落ちる(今年の3.0%)。安定しているのは仕組みのほうで、利益ではなかった。
2つ目は、会社全体の利益率には、本社の費用の重さも入ること。吉野家は牛丼の事業で5.0%稼いでいるが、本社の費用などで3分の1が消えて3.6%になる。そして、本社の費用をどこに置くかは会社によってちがうので、事業の利益率も単純には比べられない。
ここから学べること
No.01の学びは、「利益率を比べる前に、売上に何が入っているかを確かめる」だった。今回はその反対側で、費用がどこに置かれているかを確かめることが大事だった。同じ「事業の利益率」でも、本社の費用を引く前なのか、本社から材料を買ったあとなのかで、意味が変わる。
もう1つは、1年分の数字だけで「稼ぐ会社」「稼げない会社」と決めないこと。すき家は1年前なら上位に入っていた。外食のように材料の値段に左右される商売は、何年か並べて、利益率がどれくらい揺れるかも見たほうがいい。
比べるときの注意
- 決算期がちがう。ゼンショーHDは2026年3月期、吉野家HDは2026年2月期で、1か月ずれている。
- セグメントの売上は、ほかの事業への売上を含む「計」で計算した。外部のお客さんへの売上だけで割ると、少し変わる。
- 「グローバルすき家」には、海外のすき家(650店)も入っている。
- ゼンショーは今年からセグメントの分け方を変えた。前の年の数字は、決算短信に載っている変更後の区分のものを使った。
自分の理解の穴
- すき家の利益の減り方(151億円)のうち、材料の値上がり・値下げ・改装・社内の値付けの変化が、それぞれどれくらいか。
- ゼンショーの「本社・サポート」は、どうやって利益を出しているのか。材料を作って売る会社が、なぜ前の年は赤字だったのか。
- 吉野家の全社費用47億円の中身は何か。
- 「ファミレスはメニューが多いので値上がりに強い」は本当か。原価率の動きで確かめたい。
- 松屋も並べたい(今回は決算短信の原本を確かめられなかったので入れていない)。
この号で出てきた言葉
- セグメント情報
- 会社が事業ごとに、売上と利益を分けて書いたもの。会社全体の数字では見えない、事業ごとの稼ぐ力が分かる。
- 全社費用
- 本社の費用など、どの事業にも配られていない費用。事業の利益を足したあとに、まとめて引かれる。
- 調整額
- 事業ごとの利益の合計と、会社全体の営業利益の差を埋める行。全社費用や、事業どうしの取引の消去などが入る。
- 事業どうしの売上(セグメント間の内部売上高)
- 同じグループの中で、ある事業がほかの事業に売った分。グループ全体の売上からは消される。
- 既存店売上高
- 前の年から営業している店だけで比べた売上。新しい店が増えた分を除いて、お客さんの入りを見るのに使う。
ゼンショーの本社は、なぜ「稼ぐ部門」なのか
この記事は、学びながら書いている勉強ノートです。投資の判断に使うものではありません。数字の間違いに気づいたら教えてください。