株と借金は、なにがちがうのか
- 株で集めたお金は返さなくていい。その代わり、会社の一部(持ち分)を渡している。
- 株は「失敗したら安く、成功したら一番高くつく」お金。借金はその逆。
- 借金の利息は費用として利益を減らすが、株主へのお礼(配当)は費用にならない。株のコストは利益の計算に出てこない。
きっかけ:株って返さなくていいの?
ベンチャー企業が「何十億円を調達」と発表するニュースを見て、ふと疑問が出た。そのお金は、いつか返すのだろうか。調べてみると、株で集めたお金は、基本的に返さなくていい。ただ、そう聞くと今度は「じゃあ借金より株のほうが得なのでは」と思えてくる。
キャッシュフローで見ると、株も借金も「財務キャッシュフロー」に、会社にお金が入ってくるものとして並ぶ。入り口は同じに見える。では、何がちがうのか。
返さない代わりに、会社の一部を渡す
株でお金を集めることを「出資を受ける」という。出資した人は、お金を貸したのではなく、会社の株を買っている。だから会社は返す必要がない。その代わり、出資した人は会社の一部の持ち主になる。
| 株(出資) | 借金 | |
|---|---|---|
| 返す必要は? | 基本は返さない | 決まった日までに返す |
| 相手のもうけ方 | 株の値上がりと配当 | 利息 |
| 会社が失敗したら | 出した人が損をする | 返す義務が残る |
| 代わりに渡すもの | 会社の持ち分と、経営に意見する権利 | なし(利息を払うだけ) |
株主は、株を持っている割合に応じて、会社の利益を受け取る権利と、株主総会で経営に意見する権利を持つ。返さなくていいお金の「値段」は、この持ち分そのものだ。
失敗したら安く、成功したら高い
返さなくていいなら、株のほうが安全で得に見える。確かに、会社が失敗したときは株のほうがずっと軽い。でも、成功したときは話が逆になる。1つ予想してみてほしい(数字は説明のための例)。
1,000万円の出資を受けて、会社の20%を渡した。その会社がのちに100億円の価値になった。渡した20%は、いくら分?
これが株の性質だ。会社が失敗すれば、出資した人が損をするだけで、会社には返す義務が残らない。つまり失敗したときは安い。でも会社が大きく成功すると、渡した持ち分の値打ちも一緒にふくらむ。成功したときは、一番高くつくお金になる。
借金はその逆だ。失敗しても返す義務が残るので、失敗したときは重い。そのかわり、成功しても返す額は決まっていて、持ち分は1つも渡さない。成功したときは安いお金になる。
株のコストは、利益の計算に出てこない
もう1つ、大きなちがいがある。利益の計算(損益計算書)での扱いだ。
| 借金 | 株 | |
|---|---|---|
| お金を受け取ったとき | 利益には関係なし(財務キャッシュフローに入る) | 利益には関係なし(財務キャッシュフローに入る) |
| 使った分のお礼 | 利息は費用になる(営業外費用 → 経常利益が減る) | 配当は費用にならない。利益が出たあとで、その中から分ける |
| 元のお金を返す | 費用にはならない(財務キャッシュフローから出る) | 基本は返さない |
| 税金 | 利息は費用なので、そのぶん税金が減る | 配当は税金を払ったあとのお金から出す |
借金の利息は、費用として利益の計算に入り、経常利益を減らす。ところが株主へのお礼である配当は、費用ではない。利益が出たあとに、その中から分けるものだ。だから損益計算書だけを見ると、株のお金はタダのように見える。
でも、タダではない。株主は、損をするかもしれないお金を出しているので、「このくらいは増やしてほしい」と期待している。この期待の大きさを「株主資本コスト」と呼ぶ。帳簿には出てこないが、投資する人は頭の中で必ず引いている。
だから お金No.01で見た ROE が大事になる。ROE が株主の期待を超えていれば、お金を預けた意味がある。下回っていれば、利益が出ていても、株主から見ると「もっといい預け先がある」ということになる。
この「帳簿に出ない株主のコスト」を、日本の上場企業にちゃんと意識させようとしたのが、2023年3月に東京証券取引所が出したお願いだ。プライム市場とスタンダード市場のすべての上場会社に、自社の資本コストと資本収益性をつかみ、改善の計画を立てて開示するよう求めた。規則で義務づけたものではなく、「お願い」という形をとっている。
もう1つの見えないコスト:1株あたりが薄まる
新しく株を出すと、株の数が増える。会社全体の利益が同じでも、1株あたりの利益は薄まる。前からいる株主にとっては、自分の持ち分の割合が下がることになる。持ち分を渡すコストは、ここにも出てくる。
どちらが向いているかは、事業の形で決まる
ここまで来ると、「株と借金のどちらが得か」は一概に言えないことが分かる。向き不向きは、事業の形で決まる。
| 事業の形 | 向いているお金 | 理由 |
|---|---|---|
| 当たるか分からないが、当たれば大きい(新しいアプリ、AI など) | 株 | 失敗しても返さなくていい。そもそも貸してくれる人が少ない |
| 毎月の売上が読める(飲食店、不動産、工場など) | 借金 | 返す見込みが立つので借りやすい。持ち分を渡さなくてすむ |
| 小さく、自分のペースで続けたい | 自分のお金と、少しの借金 | 株で出資する人は、大きく伸びることを期待する |
外食チェーンの多くが借金を使って店を増やせるのは、売上が読みやすいからだ。お金No.01で、ゼンショーやスシローが株主のお金の3〜4倍の資産を動かしていたのも、この形と合っている。
ここから学べること
株と借金は、どちらも「会社に入ってくるお金」だが、失敗したときと成功したときで、重さが逆になる。そして株のコストは、利益の計算には出てこず、ROE や1株あたりの利益を通して、投資する人の頭の中で測られている。帳簿に出ないコストほど、気づかないうちに高くつく。
自分の理解の穴
- 株主資本コストは、実際にはどうやって計算されているのか。
- 株でも借金でもない、中間のお金(優先株、劣後ローン、売上に応じて返すお金など)はどう扱われるのか。
- 東証のお願いのあと、外食の会社はどんな計画を出したのか。
この号で出てきた言葉
- 出資
- お金を出して、会社の株を受け取ること。会社は返す必要がない。
- 配当
- 会社が利益の中から、株主に分けるお金。費用ではない。
- 営業外費用
- 本業以外でかかった費用。借金の利息が代表的。営業利益のあと、経常利益の手前で引かれる。
- 株主資本コスト
- 株主が「このくらいは増やしてほしい」と期待している増え方。帳簿には出てこない。
- 財務キャッシュフロー
- 借りる・返す、株を出す、配当を払うなど、お金の集め方と返し方による現金の出入り。
この記事は、学びながら書いている勉強ノートです。投資の判断に使うものではありません。間違いに気づいたら教えてください。