お金|No.02

株と借金は、なにがちがうのか

2026年11月読む時間 約6分会計のルールと東証の資料から
3行でいうと
  1. 株で集めたお金は返さなくていい。その代わり、会社の一部(持ち分)を渡している。
  2. 株は「失敗したら安く、成功したら一番高くつく」お金。借金はその逆。
  3. 借金の利息は費用として利益を減らすが、株主へのお礼(配当)は費用にならない。株のコストは利益の計算に出てこない。

きっかけ:株って返さなくていいの?

ベンチャー企業が「何十億円を調達」と発表するニュースを見て、ふと疑問が出た。そのお金は、いつか返すのだろうか。調べてみると、株で集めたお金は、基本的に返さなくていい。ただ、そう聞くと今度は「じゃあ借金より株のほうが得なのでは」と思えてくる。

キャッシュフローで見ると、株も借金も「財務キャッシュフロー」に、会社にお金が入ってくるものとして並ぶ。入り口は同じに見える。では、何がちがうのか。

返さない代わりに、会社の一部を渡す

株でお金を集めることを「出資を受ける」という。出資した人は、お金を貸したのではなく、会社の株を買っている。だから会社は返す必要がない。その代わり、出資した人は会社の一部の持ち主になる。

図1 株と借金のちがい
株(出資)借金
返す必要は?基本は返さない決まった日までに返す
相手のもうけ方株の値上がりと配当利息
会社が失敗したら出した人が損をする返す義務が残る
代わりに渡すもの会社の持ち分と、経営に意見する権利なし(利息を払うだけ)

株主は、株を持っている割合に応じて、会社の利益を受け取る権利と、株主総会で経営に意見する権利を持つ。返さなくていいお金の「値段」は、この持ち分そのものだ。

失敗したら安く、成功したら高い

返さなくていいなら、株のほうが安全で得に見える。確かに、会社が失敗したときは株のほうがずっと軽い。でも、成功したときは話が逆になる。1つ予想してみてほしい(数字は説明のための例)。

予想してみよう

1,000万円の出資を受けて、会社の20%を渡した。その会社がのちに100億円の価値になった。渡した20%は、いくら分?

これが株の性質だ。会社が失敗すれば、出資した人が損をするだけで、会社には返す義務が残らない。つまり失敗したときは安い。でも会社が大きく成功すると、渡した持ち分の値打ちも一緒にふくらむ。成功したときは、一番高くつくお金になる。

借金はその逆だ。失敗しても返す義務が残るので、失敗したときは重い。そのかわり、成功しても返す額は決まっていて、持ち分は1つも渡さない。成功したときは安いお金になる。

株のコストは、利益の計算に出てこない

もう1つ、大きなちがいがある。利益の計算(損益計算書)での扱いだ。

図2 利益の計算での扱い
借金株
お金を受け取ったとき利益には関係なし(財務キャッシュフローに入る)利益には関係なし(財務キャッシュフローに入る)
使った分のお礼利息は費用になる(営業外費用 → 経常利益が減る)配当は費用にならない。利益が出たあとで、その中から分ける
元のお金を返す費用にはならない(財務キャッシュフローから出る)基本は返さない
税金利息は費用なので、そのぶん税金が減る配当は税金を払ったあとのお金から出す

借金の利息は、費用として利益の計算に入り、経常利益を減らす。ところが株主へのお礼である配当は、費用ではない。利益が出たあとに、その中から分けるものだ。だから損益計算書だけを見ると、株のお金はタダのように見える。

でも、タダではない。株主は、損をするかもしれないお金を出しているので、「このくらいは増やしてほしい」と期待している。この期待の大きさを「株主資本コスト」と呼ぶ。帳簿には出てこないが、投資する人は頭の中で必ず引いている。

だから お金No.01で見た ROE が大事になる。ROE が株主の期待を超えていれば、お金を預けた意味がある。下回っていれば、利益が出ていても、株主から見ると「もっといい預け先がある」ということになる。

この「帳簿に出ない株主のコスト」を、日本の上場企業にちゃんと意識させようとしたのが、2023年3月に東京証券取引所が出したお願いだ。プライム市場とスタンダード市場のすべての上場会社に、自社の資本コストと資本収益性をつかみ、改善の計画を立てて開示するよう求めた。規則で義務づけたものではなく、「お願い」という形をとっている。

もう1つの見えないコスト:1株あたりが薄まる

新しく株を出すと、株の数が増える。会社全体の利益が同じでも、1株あたりの利益は薄まる。前からいる株主にとっては、自分の持ち分の割合が下がることになる。持ち分を渡すコストは、ここにも出てくる。

どちらが向いているかは、事業の形で決まる

ここまで来ると、「株と借金のどちらが得か」は一概に言えないことが分かる。向き不向きは、事業の形で決まる。

図3 事業の形と、向いているお金
事業の形向いているお金理由
当たるか分からないが、当たれば大きい(新しいアプリ、AI など)株失敗しても返さなくていい。そもそも貸してくれる人が少ない
毎月の売上が読める(飲食店、不動産、工場など)借金返す見込みが立つので借りやすい。持ち分を渡さなくてすむ
小さく、自分のペースで続けたい自分のお金と、少しの借金株で出資する人は、大きく伸びることを期待する

外食チェーンの多くが借金を使って店を増やせるのは、売上が読みやすいからだ。お金No.01で、ゼンショーやスシローが株主のお金の3〜4倍の資産を動かしていたのも、この形と合っている。

ここから学べること

株と借金は、どちらも「会社に入ってくるお金」だが、失敗したときと成功したときで、重さが逆になる。そして株のコストは、利益の計算には出てこず、ROE や1株あたりの利益を通して、投資する人の頭の中で測られている。帳簿に出ないコストほど、気づかないうちに高くつく。

自分の理解の穴

この号で出てきた言葉

出資
お金を出して、会社の株を受け取ること。会社は返す必要がない。
配当
会社が利益の中から、株主に分けるお金。費用ではない。
営業外費用
本業以外でかかった費用。借金の利息が代表的。営業利益のあと、経常利益の手前で引かれる。
株主資本コスト
株主が「このくらいは増やしてほしい」と期待している増え方。帳簿には出てこない。
財務キャッシュフロー
借りる・返す、株を出す、配当を払うなど、お金の集め方と返し方による現金の出入り。
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出典:東京証券取引所「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」(2023年3月31日)。株と借金の会計上の扱いは、日本の会計基準の一般的な考え方による。
この記事は、学びながら書いている勉強ノートです。投資の判断に使うものではありません。間違いに気づいたら教えてください。