流行は、どこまでお金で作られているのか
- 伸びそうな会社にお金が集まり、そのお金で広げると、もっと流行る。流行とお金は、ぐるぐる回っている。
- お金は「成功しやすさ」より「大きさと速さ」を上げる。中身がだめなら、速く失敗する。
- 投資する人は「先に返してもらう」約束をつけることが多い。ほどほどの成功だと、創業者にはほとんど残らないこともある。
きっかけ:流行っている理由の1つは、お金なのか
お金No.01で、株価は「この先、どれだけ稼げそうか」への期待で動くと書いた。そこで疑問が出た。新しいサービスが一気に流行るとき、その理由の1つは「伸びそうだから投資される」ことなのではないか。
答えは「ある」。ただ、多くの場合、お金は流行をゼロから作るというより、大きくする役をしている。
流行とお金の輪
伸びそうな会社と、お金の関係を順番に並べると、こうなる。
流行ると数字がさらに伸びて、また「伸びそうに見える」に戻る。
分かりやすい例が、スマホ決済の PayPay が2018年12月に始めた「100億円あげちゃうキャンペーン」だ。支払った額の20%をポイントで戻すという大きな還元で、もともと翌年3月までの予定だったが、利用が一気に集まって、約10日で終わった。赤字でも先に使う人を増やせば、あとで稼げる、という考え方の典型だ。配車アプリやフードデリバリーも、はじめは似た形で広がった。
お金で作った流行の弱点
ただ、お金で来てもらった人は、お金が止まると離れやすい。値下げやポイントだけで来ていた人は、それがなくなれば、ほかの安いところへ移る。だから投資する人は、「お金を止めても残るか」を見る。使い続ける人の割合や、1人のお客さんからどれだけ稼げるか、といった数字だ。
つまり、お金が上げるのは「成功しやすさ」というより、大きさと速さだ。中身が求められていれば、それが一気に広がる。求められていなければ、お金はその分「速く失敗する」ために使われる。
ベンチャーキャピタルは、どうやってもうけるのか
若い会社に出資するのが、ベンチャーキャピタル(VC)だ。お金No.02で見たとおり、出資は貸すのではなく株を買うことなので、会社は返さなくていい。では、VC はどうやってもうけるのか。
- 若い会社の株を、まだ安いうちに買う
- 会社が大きくなるのを待つ
- 会社が上場したら市場で売る。または、ほかの会社に買収されるときに売る
上場していない会社にも株はある。株式会社なら、上場していてもいなくても必ず株がある。上場というのは、その株を、証券取引所で誰でも売り買いできるようにすることだ。上場していない株は、買う人を自分で探す必要があり、簡単には売れない。VC が上場や買収を待つのは、そうしないと株を売る場所がないからだ。
VC も、自分のお金だけで投資しているわけではない。年金や保険会社などからお金を預かって「ファンド」を作っていて、ファンドには10年ほどの期限があることが多い。そのあいだに株を売って、預かったお金を返す必要がある。だから投資先には「何年以内に上場か買収を」という強い期待がかかる。
そして VC は、投資先の多くは失敗する前提で、たくさんの会社に少しずつ出す。そのうち1社が大きく当たれば、全体で取り返せる、という考え方だ。なので「VC から投資された=成功しそう」ではなく、正確には「当たったら大きい、と思われている」くらいの意味になる。
「ほどほどの成功」で、創業者に残らない仕組み
VC が持つのは、ふつうの株ではなく「優先株」であることが多い。優先株には、会社が売れたときに「出した分は先にもらう」という条件がついていることがある。条件は契約ごとにちがうが、一番分かりやすい形で計算してみる(数字は説明のための例)。
VC から10億円を集めた会社が、思ったほど伸びずに12億円で売れた。VC が「出した分は先にもらう」約束だと、創業者や社員に残るのは?
持ち分の割合だけ見れば、創業者のほうが多く持っていることもある。それでも、手元に残るのはわずかになる。
大成功したときは、全員がうれしい。差が出るのは「ほどほど」で終わったときだ。アップサイド(大きく伸びたときのもうけ)のために株を渡したつもりが、実は「下がったときの守り」を投資する人に渡していた、ということが起きる。
VC の側にも理由はある。出したお金の多くを失う前提で投資しているので、当たったときとほどほどのときに、しっかり取り返す条件をつける。どちらが悪いというより、条件を知らずにサインすると不利になる、という話だ。株の割合だけでなく、「失敗したとき・ほどほどのときに、誰がいくらもらえるか」まで見る必要がある。
上場すると、何が変わるのか
VC が待つ「上場」は、会社にとっても大きな分かれ目だ。お金と信用が手に入る代わりに、会社が自分たちだけのものではなくなる。
| よいところ | 重いところ |
|---|---|
| 市場から、たくさんの人のお金を集めやすくなる | 監査や株主への説明などで、毎年お金と手間がかかる |
| 信用と知名度が上がり、採用や取引がしやすくなる | 決算短信などで、中身を公開しないといけない |
| 創業者や VC が、持っている株を売れるようになる | 3か月ごとの決算で、短い期間の数字を求められやすい |
| 株を、社員への報酬や会社の買収に使える | 株を誰でも買えるので、会社を買われるかもしれない |
重いほうが大きくなって、わざわざ上場をやめる会社もある。「短い期間の株価に振り回されず、長い目で立て直したい」というのがよくある理由だ。ちなみに、nokavi news で読んでいる決算短信は、上場しているから公開されている資料だ。
見えているのは、成功した会社だけ
最後に、ベンチャーが「短い年数で注目されて、生き生きしている」ように見える理由も書いておく。お金を集めた発表はそれだけでニュースになり、集めたお金で広告も打てる。だから目立っていること=稼いでいること、ではないことが多い。そして同じ時期に始めて静かに消えた会社のほうが、ずっと多い。見えているのは、うまくいった会社だけだ。
ここから学べること
流行とお金は、どちらかが一方を作るというより、おたがいを大きくし合う輪になっている。その輪の中で、お金は成功も失敗も速く大きくする。だから「どれだけ集めたか」より、「お金を止めても残るか」と「どんな条件で集めたか」のほうが、その会社の本当の姿に近い。
自分の理解の穴
- 日本の VC の契約では、「先にもらう」条件は実際にどれくらいの割合で入っているのか。
- 「お金を止めても残るか」を、外から見える数字でどう確かめるか。
- 上場をやめた会社は、その後どうなっているのか。
この号で出てきた言葉
- ベンチャーキャピタル(VC)
- 若い会社に出資して、上場や買収のときに株を売ってもうける投資会社。
- ファンド
- 投資する人からお金を預かってまとめ、運用するしくみ。期限があることが多い。
- 優先株
- ふつうの株より先に、配当や会社が売れたときのお金を受け取れる条件がついた株。
- 上場
- 会社の株を、証券取引所で誰でも売り買いできるようにすること。
- アップサイド
- うまくいったときに得られる、上ぶれのもうけ。
この記事は、学びながら書いている勉強ノートです。投資の判断に使うものではありません。間違いに気づいたら教えてください。