お金|No.03

流行は、どこまでお金で作られているのか

2026年11月読む時間 約7分ベンチャー投資と上場のしくみ
3行でいうと
  1. 伸びそうな会社にお金が集まり、そのお金で広げると、もっと流行る。流行とお金は、ぐるぐる回っている。
  2. お金は「成功しやすさ」より「大きさと速さ」を上げる。中身がだめなら、速く失敗する。
  3. 投資する人は「先に返してもらう」約束をつけることが多い。ほどほどの成功だと、創業者にはほとんど残らないこともある。

きっかけ:流行っている理由の1つは、お金なのか

お金No.01で、株価は「この先、どれだけ稼げそうか」への期待で動くと書いた。そこで疑問が出た。新しいサービスが一気に流行るとき、その理由の1つは「伸びそうだから投資される」ことなのではないか。

答えは「ある」。ただ、多くの場合、お金は流行をゼロから作るというより、大きくする役をしている。

流行とお金の輪

伸びそうな会社と、お金の関係を順番に並べると、こうなる。

図1 流行とお金の輪
伸びそうに見える使う人が急に増えている
お金が集まる出資を受ける、株価が上がる
そのお金で広げる広告、値下げ、ポイント還元
もっと流行る

流行ると数字がさらに伸びて、また「伸びそうに見える」に戻る。

分かりやすい例が、スマホ決済の PayPay が2018年12月に始めた「100億円あげちゃうキャンペーン」だ。支払った額の20%をポイントで戻すという大きな還元で、もともと翌年3月までの予定だったが、利用が一気に集まって、約10日で終わった。赤字でも先に使う人を増やせば、あとで稼げる、という考え方の典型だ。配車アプリやフードデリバリーも、はじめは似た形で広がった。

お金で作った流行の弱点

ただ、お金で来てもらった人は、お金が止まると離れやすい。値下げやポイントだけで来ていた人は、それがなくなれば、ほかの安いところへ移る。だから投資する人は、「お金を止めても残るか」を見る。使い続ける人の割合や、1人のお客さんからどれだけ稼げるか、といった数字だ。

つまり、お金が上げるのは「成功しやすさ」というより、大きさと速さだ。中身が求められていれば、それが一気に広がる。求められていなければ、お金はその分「速く失敗する」ために使われる。

ベンチャーキャピタルは、どうやってもうけるのか

若い会社に出資するのが、ベンチャーキャピタル(VC)だ。お金No.02で見たとおり、出資は貸すのではなく株を買うことなので、会社は返さなくていい。では、VC はどうやってもうけるのか。

  1. 若い会社の株を、まだ安いうちに買う
  2. 会社が大きくなるのを待つ
  3. 会社が上場したら市場で売る。または、ほかの会社に買収されるときに売る

上場していない会社にも株はある。株式会社なら、上場していてもいなくても必ず株がある。上場というのは、その株を、証券取引所で誰でも売り買いできるようにすることだ。上場していない株は、買う人を自分で探す必要があり、簡単には売れない。VC が上場や買収を待つのは、そうしないと株を売る場所がないからだ。

VC も、自分のお金だけで投資しているわけではない。年金や保険会社などからお金を預かって「ファンド」を作っていて、ファンドには10年ほどの期限があることが多い。そのあいだに株を売って、預かったお金を返す必要がある。だから投資先には「何年以内に上場か買収を」という強い期待がかかる。

そして VC は、投資先の多くは失敗する前提で、たくさんの会社に少しずつ出す。そのうち1社が大きく当たれば、全体で取り返せる、という考え方だ。なので「VC から投資された=成功しそう」ではなく、正確には「当たったら大きい、と思われている」くらいの意味になる。

「ほどほどの成功」で、創業者に残らない仕組み

VC が持つのは、ふつうの株ではなく「優先株」であることが多い。優先株には、会社が売れたときに「出した分は先にもらう」という条件がついていることがある。条件は契約ごとにちがうが、一番分かりやすい形で計算してみる(数字は説明のための例)。

予想してみよう

VC から10億円を集めた会社が、思ったほど伸びずに12億円で売れた。VC が「出した分は先にもらう」約束だと、創業者や社員に残るのは?

大成功したときは、全員がうれしい。差が出るのは「ほどほど」で終わったときだ。アップサイド(大きく伸びたときのもうけ)のために株を渡したつもりが、実は「下がったときの守り」を投資する人に渡していた、ということが起きる。

VC の側にも理由はある。出したお金の多くを失う前提で投資しているので、当たったときとほどほどのときに、しっかり取り返す条件をつける。どちらが悪いというより、条件を知らずにサインすると不利になる、という話だ。株の割合だけでなく、「失敗したとき・ほどほどのときに、誰がいくらもらえるか」まで見る必要がある。

上場すると、何が変わるのか

VC が待つ「上場」は、会社にとっても大きな分かれ目だ。お金と信用が手に入る代わりに、会社が自分たちだけのものではなくなる。

図2 上場のよいところと、重いところ
よいところ重いところ
市場から、たくさんの人のお金を集めやすくなる監査や株主への説明などで、毎年お金と手間がかかる
信用と知名度が上がり、採用や取引がしやすくなる決算短信などで、中身を公開しないといけない
創業者や VC が、持っている株を売れるようになる3か月ごとの決算で、短い期間の数字を求められやすい
株を、社員への報酬や会社の買収に使える株を誰でも買えるので、会社を買われるかもしれない

重いほうが大きくなって、わざわざ上場をやめる会社もある。「短い期間の株価に振り回されず、長い目で立て直したい」というのがよくある理由だ。ちなみに、nokavi news で読んでいる決算短信は、上場しているから公開されている資料だ。

見えているのは、成功した会社だけ

最後に、ベンチャーが「短い年数で注目されて、生き生きしている」ように見える理由も書いておく。お金を集めた発表はそれだけでニュースになり、集めたお金で広告も打てる。だから目立っていること=稼いでいること、ではないことが多い。そして同じ時期に始めて静かに消えた会社のほうが、ずっと多い。見えているのは、うまくいった会社だけだ。

ここから学べること

流行とお金は、どちらかが一方を作るというより、おたがいを大きくし合う輪になっている。その輪の中で、お金は成功も失敗も速く大きくする。だから「どれだけ集めたか」より、「お金を止めても残るか」と「どんな条件で集めたか」のほうが、その会社の本当の姿に近い。

自分の理解の穴

この号で出てきた言葉

ベンチャーキャピタル(VC)
若い会社に出資して、上場や買収のときに株を売ってもうける投資会社。
ファンド
投資する人からお金を預かってまとめ、運用するしくみ。期限があることが多い。
優先株
ふつうの株より先に、配当や会社が売れたときのお金を受け取れる条件がついた株。
上場
会社の株を、証券取引所で誰でも売り買いできるようにすること。
アップサイド
うまくいったときに得られる、上ぶれのもうけ。
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出典:ソフトバンク・ヤフー・PayPay「100億円あげちゃうキャンペーン」のお知らせ(2018年11月22日)、BCN RETAIL「PayPay、100億円キャンペーンを終了」(2018年12月14日)。VC と優先株、上場のしくみは一般的な考え方による。数字の例は説明のためのもので、実在の会社のものではない。
この記事は、学びながら書いている勉強ノートです。投資の判断に使うものではありません。間違いに気づいたら教えてください。