お金|No.04

帳簿に載らない「含み益」

2026年11月読む時間 約6分会計のルールと東証の資料から
3行でいうと
  1. 会社の土地は、帳簿では「買ったときの値段」のまま。値上がりしても書きかえない。
  2. 今の値段との差が「含み益」。古い会社ほど、帳簿に見えない価値を持っていることがある。
  3. 土地を持ち続けるかどうかは、帳簿の値段ではなく、今の値段で見た利回りで決まる。

きっかけ:資産には、不動産の価値も入るのか

お金No.01で、ROE や自己資本比率は「資産」を使って計算すると書いた。では、その資産には、会社が持っている土地や建物の価値も入っているのだろうか。入っているなら、いくらで入っているのか。調べてみると、ここに大きな「ずれ」が隠れていた。

資産は「買ったときの値段」で記録される

会社の持ち物と、そのお金の出どころを並べた表を、貸借対照表という。土地も建物も、ここに資産として入る。ただし、日本の会計のルールでは、多くの資産は今の値段ではなく、買ったときの値段で記録される。

図1 資産は、どの値段で記録されるか
資産記録される値段
土地買ったときの値段のまま。値上がりしても書きかえない
建物・機械買ったときの値段から、毎年少しずつ減らしていく(減価償却)
持っている上場会社の株多くは今の値段に合わせる
値打ちが大きく下がったもの下げて書きかえる(減損)。上がったときは書きかえない
ブランド・人・ノウハウ載らない(ほかの会社を買ったときだけ「のれん」として載る)

値段が下がったら書きかえるのに、上がっても書きかえない。片側だけのルールになっている。帳簿を慎重に、実際より大きく見せないように作るための考え方だ。

「含み益」が生まれる

たとえば、50年前に駅前の土地を1億円で買った会社があるとする。今はその土地に100億円の価値があっても、帳簿には1億円のまま載っている。この差の99億円を「含み益」と呼ぶ。売ったときに初めて利益として表に出てくる、帳簿に見えない価値だ(数字は説明のための例)。

古くからある会社ほど、昔安く買った土地を持っていて、含み益が大きくなりやすい。逆に、最近大きくなった会社は、土地を高い値段で買っているか、そもそも借りていることが多い。

含み益は、まったく見えないわけではない。賃貸に出している不動産については、決算書の注記に「今の値段はだいたいこれくらい」と書くルールがある。調べれば、帳簿の値段と今の値段の差を知ることができる。

PBR:株価と帳簿の差

ここで関係してくるのが、PBR という数字だ。株価を、1株あたりの株主のお金(純資産)で割ったもので、市場が会社を帳簿の何倍で評価しているかを表す。

2023年3月、東京証券取引所は上場会社に「資本コストや株価を意識した経営」を求めた(お金No.02)。その議論の中で、プライム市場の約半数、スタンダード市場の約6割の会社が、ROE が8%を下回り、PBR も1倍を下回っていることが示された。

そして、含み益の大きい土地を持っている会社は、帳簿の純資産が実際の価値より小さく出ている。今の値段で計算し直すと、本当の PBR はもっと低いことになる。「持っている物の価値より、ずっと安く値段がついている」会社がある、ということだ。こうした会社は、アクティビストと呼ばれる投資家から「使っていない土地を売って、そのお金を株主に返してほしい」と提案されることがある。

売るか、貸すか、分けるか

では、売らずに、その土地にビルを建てて貸せばいいのではないか。家賃が入れば利益は増える。本業ではない会社が受け取る家賃は、多くの場合「営業外収益」に入るので、経常利益が増える。ここで1つ予想してほしい(数字は説明のための例)。

予想してみよう

帳簿では1億円、今の値段では100億円の土地。ビルを建てて、年に3億円の家賃が入る。投資する人が見る利回りは?

帳簿で見れば、1億円の土地から年3億円も稼いでいる。でも投資する人から見ると、「100億円で売れるものを、年3%しか生まない使い方をしている」となる。株主が期待する増え方(お金No.02の株主資本コスト)が8%くらいなら、売ってそのお金を本業に使うか、株主に返したほうがいい、という計算になる。

それでも「持って貸す」が正解になることもある。建て直して土地の価値ごと大きく上がるとき、街づくりのように不動産が本業の一部になっているとき、本業の売上が大きく揺れるので家賃で全体を安定させたいとき、などだ。

図2 売る・貸す以外の選び方
やり方中身よいところ
売って借りる売ったあと、同じ建物を借りて使い続ける(セール・アンド・リースバック)お金が手に入り、建物も使える
不動産だけ分ける不動産を別の会社に切り出す。不動産の投資信託(リート)に売る本業と不動産が、別々に正しく評価されやすい
開発してから売る価値を上げてから売る上がった分を自分で取れる

2つ目の「分ける」には理由がある。本業と不動産がまざっている会社は、株式市場から「何の会社か分かりにくい」と見られて、全体が安めに評価されがちだ。分けると、そのずれが消えやすい。

ここから学べること

帳簿の数字は、多くが「買ったときの値段」でできている。だから、帳簿の数字と今の値段のあいだに、大きなずれが眠っていることがある。そして同じ土地でも、帳簿で見るか今の値段で見るかで、「よく稼いでいる」にも「もったいない」にもなる。投資する人が見ているのは、いつも今の値段のほうだ。

自分の理解の穴

この号で出てきた言葉

含み益
帳簿の値段と今の値段の差のうち、まだ売っていないので利益として出ていないもの。
取得原価
資産を買ったときの値段。日本の会計では、土地などはこの値段で記録される。
減損
資産の値打ちが大きく下がったとき、帳簿の値段を下げること。
PBR(株価純資産倍率)
株価 ÷ 1株あたりの純資産。市場が会社を、帳簿の何倍で評価しているか。
リート(REIT)
投資する人からお金を集めて不動産を持ち、家賃などを分配する投資信託。
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出典:東京証券取引所「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」(2023年3月31日)と、その前の「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」の資料。資産の記録のしかたは、日本の会計基準の一般的な考え方による。数字の例は説明のためのもので、実在の会社のものではない。
この記事は、学びながら書いている勉強ノートです。投資の判断に使うものではありません。間違いに気づいたら教えてください。