帳簿に載らない「含み益」
- 会社の土地は、帳簿では「買ったときの値段」のまま。値上がりしても書きかえない。
- 今の値段との差が「含み益」。古い会社ほど、帳簿に見えない価値を持っていることがある。
- 土地を持ち続けるかどうかは、帳簿の値段ではなく、今の値段で見た利回りで決まる。
きっかけ:資産には、不動産の価値も入るのか
お金No.01で、ROE や自己資本比率は「資産」を使って計算すると書いた。では、その資産には、会社が持っている土地や建物の価値も入っているのだろうか。入っているなら、いくらで入っているのか。調べてみると、ここに大きな「ずれ」が隠れていた。
資産は「買ったときの値段」で記録される
会社の持ち物と、そのお金の出どころを並べた表を、貸借対照表という。土地も建物も、ここに資産として入る。ただし、日本の会計のルールでは、多くの資産は今の値段ではなく、買ったときの値段で記録される。
| 資産 | 記録される値段 |
|---|---|
| 土地 | 買ったときの値段のまま。値上がりしても書きかえない |
| 建物・機械 | 買ったときの値段から、毎年少しずつ減らしていく(減価償却) |
| 持っている上場会社の株 | 多くは今の値段に合わせる |
| 値打ちが大きく下がったもの | 下げて書きかえる(減損)。上がったときは書きかえない |
| ブランド・人・ノウハウ | 載らない(ほかの会社を買ったときだけ「のれん」として載る) |
値段が下がったら書きかえるのに、上がっても書きかえない。片側だけのルールになっている。帳簿を慎重に、実際より大きく見せないように作るための考え方だ。
「含み益」が生まれる
たとえば、50年前に駅前の土地を1億円で買った会社があるとする。今はその土地に100億円の価値があっても、帳簿には1億円のまま載っている。この差の99億円を「含み益」と呼ぶ。売ったときに初めて利益として表に出てくる、帳簿に見えない価値だ(数字は説明のための例)。
古くからある会社ほど、昔安く買った土地を持っていて、含み益が大きくなりやすい。逆に、最近大きくなった会社は、土地を高い値段で買っているか、そもそも借りていることが多い。
含み益は、まったく見えないわけではない。賃貸に出している不動産については、決算書の注記に「今の値段はだいたいこれくらい」と書くルールがある。調べれば、帳簿の値段と今の値段の差を知ることができる。
PBR:株価と帳簿の差
ここで関係してくるのが、PBR という数字だ。株価を、1株あたりの株主のお金(純資産)で割ったもので、市場が会社を帳簿の何倍で評価しているかを表す。
- PBR 1倍:株価と、帳簿上の株主のお金が同じ
- PBR 1倍より低い:市場から「会社を解散して資産を分けたほうが高い」と言われているような状態
2023年3月、東京証券取引所は上場会社に「資本コストや株価を意識した経営」を求めた(お金No.02)。その議論の中で、プライム市場の約半数、スタンダード市場の約6割の会社が、ROE が8%を下回り、PBR も1倍を下回っていることが示された。
そして、含み益の大きい土地を持っている会社は、帳簿の純資産が実際の価値より小さく出ている。今の値段で計算し直すと、本当の PBR はもっと低いことになる。「持っている物の価値より、ずっと安く値段がついている」会社がある、ということだ。こうした会社は、アクティビストと呼ばれる投資家から「使っていない土地を売って、そのお金を株主に返してほしい」と提案されることがある。
売るか、貸すか、分けるか
では、売らずに、その土地にビルを建てて貸せばいいのではないか。家賃が入れば利益は増える。本業ではない会社が受け取る家賃は、多くの場合「営業外収益」に入るので、経常利益が増える。ここで1つ予想してほしい(数字は説明のための例)。
帳簿では1億円、今の値段では100億円の土地。ビルを建てて、年に3億円の家賃が入る。投資する人が見る利回りは?
帳簿で見れば、1億円の土地から年3億円も稼いでいる。でも投資する人から見ると、「100億円で売れるものを、年3%しか生まない使い方をしている」となる。株主が期待する増え方(お金No.02の株主資本コスト)が8%くらいなら、売ってそのお金を本業に使うか、株主に返したほうがいい、という計算になる。
それでも「持って貸す」が正解になることもある。建て直して土地の価値ごと大きく上がるとき、街づくりのように不動産が本業の一部になっているとき、本業の売上が大きく揺れるので家賃で全体を安定させたいとき、などだ。
| やり方 | 中身 | よいところ |
|---|---|---|
| 売って借りる | 売ったあと、同じ建物を借りて使い続ける(セール・アンド・リースバック) | お金が手に入り、建物も使える |
| 不動産だけ分ける | 不動産を別の会社に切り出す。不動産の投資信託(リート)に売る | 本業と不動産が、別々に正しく評価されやすい |
| 開発してから売る | 価値を上げてから売る | 上がった分を自分で取れる |
2つ目の「分ける」には理由がある。本業と不動産がまざっている会社は、株式市場から「何の会社か分かりにくい」と見られて、全体が安めに評価されがちだ。分けると、そのずれが消えやすい。
ここから学べること
帳簿の数字は、多くが「買ったときの値段」でできている。だから、帳簿の数字と今の値段のあいだに、大きなずれが眠っていることがある。そして同じ土地でも、帳簿で見るか今の値段で見るかで、「よく稼いでいる」にも「もったいない」にもなる。投資する人が見ているのは、いつも今の値段のほうだ。
自分の理解の穴
- 実際の会社の「賃貸等不動産」の注記を読んで、帳簿の値段と今の値段の差を確かめたい(不動産・鉄道の業界でやる)。
- 国際会計基準では、土地を今の値段で記録できる方法もある。日本の会社はなぜあまり使わないのか。
- 「割安に見えて、実は理由があって安い」会社をどう見分けるか。
この号で出てきた言葉
- 含み益
- 帳簿の値段と今の値段の差のうち、まだ売っていないので利益として出ていないもの。
- 取得原価
- 資産を買ったときの値段。日本の会計では、土地などはこの値段で記録される。
- 減損
- 資産の値打ちが大きく下がったとき、帳簿の値段を下げること。
- PBR(株価純資産倍率)
- 株価 ÷ 1株あたりの純資産。市場が会社を、帳簿の何倍で評価しているか。
- リート(REIT)
- 投資する人からお金を集めて不動産を持ち、家賃などを分配する投資信託。
この記事は、学びながら書いている勉強ノートです。投資の判断に使うものではありません。間違いに気づいたら教えてください。