会社を買う人たちの地図
- お金の世界には、会社を「手伝う人」(投資銀行など)と「買う人」(ファンドなど)がいる。
- アクティビストは外から声で会社を動かし、PE ファンドは中に入って自分で変える。どちらも「本当の価値より安い」ずれをねらう。
- 日本では20年前、株主が口を出すことは悪者扱いだった。今は国や東証の方針が、同じ向きに変わっている。
きっかけ:アクティビストって、PE みたいなもの?
お金No.04で、含み益の大きい土地を持つ会社が、アクティビストから「売ってほしい」と提案されることがあると書いた。では、アクティビストと、会社をまるごと買う PE ファンドは、同じようなものなのか。調べていくと、似ているところとちがうところがはっきりしてきた。まずは、お金の世界の全体を地図にしてみる。
「手伝う人」と「買う人」
お金の世界は、大きく2つに分かれる。会社がお金を集めたり、会社を売り買いしたりするのを手伝う人と、自分たちでお金を出して株や会社を買う人だ。
| 手伝う人 | 買う人 | |
|---|---|---|
| 例 | 投資銀行(上場の手伝い、M&A の仲介、社債を出す手伝い) | PE ファンド、アクティビスト、年金を運用する会社 |
| もうけ方 | 手伝った手数料 | 投資がうまくいったときの値上がりと、運用の手数料 |
| 業界での呼び方 | セルサイド(売る側) | バイサイド(買う側) |
| 経営の世界でいうと | 戦略コンサル(経営の相談に乗る人)に近い | 経営者(自分でやる人)に近い |
投資銀行で会社の値段の計算や M&A の進め方を覚えた人が、買う側の PE ファンドに移る、という流れはよくある。手伝う側で腕をつけて、買う側に回る形だ。
お金の一番上には、誰がいるのか
ファンドは、自分のお金だけで投資しているわけではない(お金No.03)。では、そのお金はどこから来ているのか。たどっていくと、こうなる。
一番上には、ふつうの人と国がいる。会社員が毎月払っている年金の保険料も、年金基金を通して、株などで運用されている。
この図でおもしろいのは、真ん中の「運用する会社」だ。自分のお金ではなく、他人のお金を預かって、手数料をもらう仕事をしている。よく知られた形は「2と20」と呼ばれるもので、預かったお金の毎年2%前後を手数料として、増えた分の20%前後を成功報酬として受け取る。損をしても手数料は入る。お金の世界で一番うまく得をしているのは、お金を持っている人というより、他人のお金の通り道にいる人かもしれない。
外から動かすか、中から変えるか
買う人の中でも、アクティビストと PE ファンドは、どちらも「本当の価値より安い会社を見つけて、変えて、価値を上げてもうける」ところが同じだ。ちがうのは、どれだけ株を持つかと、どうやって会社を変えるかだ。
アクティビストが会社に「こう変わるべきだ」と提案するとき、ふつう持っている株はどれくらい?
年金やインデックスファンドなど、株をたくさん持っている投資家が「その提案に賛成」と投票すれば、少しの持ち分でも株主総会で通る。自分のお金の大きさより、説得できる数字と理由をつくる力で勝負している。
| アクティビスト | PE ファンド | |
|---|---|---|
| 持つ量 | 株の一部(数%〜20%くらい) | 会社の大半か、まるごと |
| 買う相手 | 上場している会社 | 上場していない会社が多い。上場会社を買って上場をやめさせることもある |
| 変え方 | 株主として意見を言い、ほかの株主を説得する | 自分たちが持ち主になって、社長を選び、直接変える |
| 借金 | あまり使わない | 買うときに大きく使う |
| 持つ期間 | 数か月〜数年 | 3〜7年くらい |
ひとことで言えば、アクティビストは外から声で動かす、PE は中に入って自分で動かす。2つはつながってもいて、アクティビストの提案のゴールが「PE に会社を売る」になることもある。
アクティビストの中には、経営者と公の場でぶつかるのではなく、裏で一緒に考え、長く持って事業の作り直しを支える「エンゲージメント型」と呼ばれる形もある。経営者自身が株を買い戻して上場をやめる MBO を、PE ファンドがお金を出して手伝うこともある。ただし MBO では、会社の中身を一番知っている経営者が株を買うので、一般の株主に不利な値段にならないかが厳しく見られる。経済産業省は2019年に、そのための指針を出している。
会社の価値を上げる4つのやり方
買う人たちが使う代表的なやり方を4つ並べる。どれも「置き場所や持ち主を変えると、価値が上がる」をねらっている。
| やり方 | 中身 | 価値が上がる理由 |
|---|---|---|
| ロールアップ | 同じ業界の小さな会社を次々に買って、1つにまとめる | まとまると、仕入れや採用、仕組みづくりが楽になる |
| カーブアウト | 大企業の中の1つの事業を切り出して、独立させる | 独立すると、その事業に集中して速く動ける |
| セカンダリー | 上場していない株やファンドの持ち分を、早く売りたい人から買う | 売り手が急いでいるので、少し安く買える |
| サーチファンド | 個人が投資家のお金で会社を探して買い、自分が社長になる | 後継ぎのいない黒字の会社を、続けながら伸ばせる |
カーブアウトの日本の大きな例が、東芝の半導体メモリ事業だ。経営が苦しくなった東芝は、2018年6月、この事業を米投資ファンドのベインキャピタルを中心とするグループに約2兆円で売った。この事業が今のキオクシアで、2024年12月に東証プライム市場に上場した。
セカンダリーは、株の「中古市場」のようなものだ。会社から新しい株を買うのではなく、すでに株を持っている人から買う。上場まで待てない社員や、期限が来たファンドの出し手など、早くお金に換えたい人から、少し安く買う。会社を変える力ではなく、「待てる余裕」と「目利き」でもうける、少し変わった形だ。
サーチファンドは、1984年にアメリカのスタンフォード大学のビジネススクールで生まれた形だ。日本では、後継ぎのいない中小企業が多いことから、ここ数年で注目されている。
日本の20年:悪者から、同じ向きへ
株主が会社に口を出すことは、日本では長く「悪いこと」と見られてきた。この20年ほどで、その見られ方は大きく変わった。
| 時期 | 何があったか |
|---|---|
| 〜1990年代 | 会社どうしがお互いの株を持ち合っていて、外の株主が口を出しにくかった |
| 2005〜2006年 | ライブドアがニッポン放送の株を買い集め、大きな騒ぎに。その後、ライブドアの堀江貴文氏(2006年1月)と、ニッポン放送株をめぐって村上ファンドの村上世彰氏(同年6月)が、証券取引法違反の疑いで逮捕された |
| 2007年 | 海外ファンドの買収提案に対するブルドックソースの防衛策を、最高裁が認めた |
| 2014年 | 伊藤レポート(ROE 8%)。機関投資家向けのルール「スチュワードシップ・コード」 |
| 2015年 | 上場会社向けのルール「コーポレートガバナンス・コード」の適用が始まる |
| 2023年 | 東証が「資本コストや株価を意識した経営」を求める |
2000年代の事件では、「株を使って会社を動かす」という発想そのものより、やり方がルールを越えてしまったことが問われた。ただ、そのあと長く「株主が口を出す=乗っ取り」という空気が続いた。
それが2014年ごろから、国の方針として「企業と投資家が対話して、稼ぐ力を高めよう」という向きに変わった。2023年の東証のお願いは、アクティビストが言ってきたことと、かなり同じ方向を向いている。株の持ち合いも減り、外の株主の声が通りやすくなった。アクティビストの本場はアメリカだが、日本はここ数年で、世界でも活動の多い市場の1つになったと言われる。
ここから学べること
会社を買う人たちは、やり方はちがっても、「本当の価値」と「今の値段」のずれを探している点で同じだった。ずれは、含み益(お金No.04)、置き場所の悪い事業、急いでいる売り手、後継ぎのいない会社など、いろいろな形で眠っている。そして、そのずれを取りに行けるかどうかは、法律やルール、世の中の空気によって、時代ごとに変わる。
自分の理解の穴
- 日本のアクティビストの提案は、実際に何件くらいあり、どれくらい通っているのか(年ごとの報告書で確かめたい)。
- PE ファンドが会社を買ったあと、具体的に何を変えているのか。
- カーブアウトで独立した会社は、親会社の中にいたときより本当に伸びているのか。
この号で出てきた言葉
- 投資銀行
- 会社がお金を集めたり、会社を売り買いしたりするのを手伝う金融機関。手数料でもうける。
- PE(プライベート・エクイティ)ファンド
- 会社の大半やまるごとを買い、経営を変えて価値を上げてから売るファンド。
- アクティビスト
- 上場会社の株の一部を持ち、株主として経営に提案する投資家。
- MBO
- 経営者が自分の会社の株を買い取ること。上場をやめるときに使われることが多い。
- カーブアウト
- 大企業の中の事業を切り出して、独立した会社にすること。
- セカンダリー
- すでに株やファンドの持ち分を持っている人から、それを買うこと。
- サーチファンド
- 個人が投資家のお金で会社を探して買い、自分が社長になって伸ばすしくみ。
この記事は、学びながら書いている勉強ノートです。投資の判断に使うものではありません。間違いに気づいたら教えてください。